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 肥大型心筋症 
猫の肥大型心筋症

  1.  はじめに
    知らず知らずのうちに冒され、心臓の筋肉がどんどん厚くなってしまう心臓病、それが、猫の肥大型心筋症です。
    猫の場合、調子が悪くてもじっとしていることが多く、また咳もめったにしないので目立った症状がほとんど出ません。ひどくなると、突然後ろ足を激しく痛がり起き上がることもできなくなります。ぎゃぁぎゃぁ泣き叫びのたうち回り、口を大きく開けハアハアしながら苦しみます。それは想像を絶するような痛みだと思います。
    心臓の内部にできた血栓のために(腸骨動脈塞栓症)、後ろ足に血液がゆき渡らずに麻痺してしまうからです。
    詰まった箇所を取り除く手術を行っても、他に血栓が存在していれば、再発率がきわめて高く、またそれにより心臓が弱まっているため、手術中や手術後に死亡するケースも多いです。手術以外にも血栓を溶かす治療がありますが、非常に高価な薬を使い、うまく血栓が溶けたとしてもその後のコントロールが大変です。
    ですから、早期発見、早期治療がより重要になってくるのです。

    発症年齢は、3ヶ月齢〜18歳と幅広く、言い換えればすべての猫に発症する可能性があります。また、この病気は遺伝し、猫の家系発症例の報告があります。
    通常、一般身体検査時の聴診において、その雑音等で気づく場合があります。しかし、なかには症状が進行していてもその雑音が聞き取れないこともあるので、この病気の診断をいっそう困難にします。

  2.  症 状
    無症状の場合が多いのですが、症状が進行するにつれて食欲や元気がなくなりじっとしていることが多くなります。
    心臓の筋肉が厚くなることで、十分に血液を排出することができなくなり、全身の臓器(心臓、肝臓、腸、筋肉など)が弱まってしまうからです。
    いろいろな症状がでてきて、前述の呼吸困難や、後ろ足の麻痺とかです。この状態が長く続くと、後ろ足が壊死してしまいます。

  3.  診断方法
    超音波検査(エコー検査)とレントゲン写真がありますが、とくに超音波検査は、心臓の大きさ、心臓内の血栓の有無、心臓壁の厚さなどの状態をより良く確認できるので、何よりも早期診断に有効です。

    • 超音波検査
      口があまり開かず、血液が十分に流れにくくなる(写真右)
      エコー01   エコー02
      正常   肥大


    • レントゲン
      正常の心臓の大きさよりかなり肥大している(写真右)
      正常 レントゲン01 肥大 レントゲン02

  4.  治 療
    • 無症状の症例
      無症状なのだから治療の必要がないのではと思うかもしれませんが、この病気はだんだんに進行し、ある日突然、呼吸困難や起立不能に陥る可能性があるのです。
      心臓が拡大すればするほど、肺水腫や血栓形成の危険性が高まります。少しでもそれを回避するためには、治療は当然必要だと思います。以下2種類の薬剤があります。  
         
      1. アンギオテンシン変換酵素阻害剤
        心筋の肥大を起こす因子のひとつにアンギオテンシンという物質があります。
        肥大の進行を抑えるために、この薬剤は、理論的に有効であると考えられていて、この薬剤により心臓の肥厚が縮小した症例もあると日本獣医循環器学会循環器認定医の先生も述べています。

      2. カルシウムチャンネル拮抗薬
        心室筋をゆるめやすくすることにより入ってくる血液量を増加させる。それにより心房の拡大を抑えます。
        しかし、飲ませづらいのが難点です。  

    • 呼吸困難の症例
      肺に水がたまって呼吸がうまくできないのですから、利尿剤により、たまった水を積極的にとる治療が必要です。また体が低酸素状態ですので酸素吸入も同時に行います。
      症状が安定したらアンギオテンシン変換酵素阻害剤やカルシウムチャンネル拮抗薬を飲ませる必要があります。しかし、無症状の症例に比べると長生きできません。

    • 後肢麻痺の症例
      外科的な血栓摘出または血栓溶解療法を行う。
      治療に成功したとしても、再発率がかなり高いため、残念ながらあまり長生きは期待できません。

  5.  最後に
    繰り返しますが、この病気は早期発見、早期治療が大変重要です。
    なぜなら呼吸困難や後肢麻痺を起こしてしまったら、長生きできないからです。この病気を早期に発見するためには、超音波検査(エコー検査)、レントゲン検査が不可欠です。
    家族同様の愛猫をこの病気から守るためにも、年1回の検診が必要だと思います。
 


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